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な ま え:TAKAHASHI Akinari
いどころ:Kyoto
なりわい:graduate student
ま な び:sociology or social systems theory

2010年12月12日日曜日

世界精神なきヘーゲル

ルーマン逝去当時、独誌『シュピーゲル』に載った追悼記事の私訳。
既出だったらごめんなさい。

けっこう意訳してるし誤訳もあるかと思いますので、原文参照したい方は下記リンクへ
Hegel ohne Weltgeist (Spiegel, 47/1998)



世界精神なきヘーゲル
ニクラス・ルーマン 19271998

ズーアカンプの赤いレンガをまだ本棚にしまってある68年世代も多い。その本は『社会の理論か社会テクノロジーか』と題されている。そこでは、当時の知の巨人(ゴリアテ)であったユルゲン・ハーバーマスとニクラス・ルーマンという名のほとんど無名の社会学者がを交わしていた

ビーレフェルトのダヴィデは闘いの勝者となった。ハーバーマスのいう「支配から自由な討議」は「理想的発話状況」とか個人を誇る概念ともいわれたが、左派はそれをもちいて荒々しくなってしまった近代を見通そうとしていた。ルーマンは、機能分化社会という観点から時代遅れであると冷静に叱責し、彼らをオフサイドへと追いやった。そして当時、左派は時代の空気を統べる理論的立場をついに失ってしまったのだった。

さまざまなアカデミック・キャリア-優秀な法学徒、行政学の講師、行政官僚、アメリカ留学、一セメスターでの博士号と教授資格の取得-を経てきた彼は、造詣の深い著作を書きつづけた。ヘーゲル賞受賞者であるルーマンは、30年にわたって社会学的省察のために身を捧げた。

世界精神たるヘーゲルを広範なテーマへと彼は結びつけた。すなわち、宗教、科学、教育、経済、政治、法、愛、さらにはマスメディアまでも、ビーレフェルトの教授は探求したのだった。しかしヘーゲルと違ってルーマンにおいては、さまざまな層に切り裂かれてしまった世界が世界精神につき動かされた弁証法によって結びつけられることはない。

ルーマンは政治が万能であるという幻想に別れを告げているし、本棚に眠っている倫理もそうであることを示している。善と悪という区別をもって処理する際には、リューネブルク市の息子である彼が賢しくみてとったように、善が本当に善いものなのかどうかは知られない。道徳は最終的には基礎づけられえないのである。

社会の機能システムにはそれぞれ独自の法則が含まれている。経済では支払うか支払わないかに意味がある。政治では権力があるかないか。メディアにおける情報循環では新しいかそれほど新しくはないかが。愛ですら愛しあう者たちのものではない。愛は独自のパターン、たとえばある時代の愛の理想像に従っているのだ。

経済、政治、あるいはメディアのような社会の中の特殊な領域でうみだされてきたものによって、トートロジーに聞こえる法則が安定に保たれている。いわく「システムは、みずからを成り立たせている要素によって、みずからを成り立たせている要素を産出する」。

知的なビーズ遊びにすぎない? まったく違う。たとえば、支払うことによって今度は代金の受け取り手が支払ったり支払わなかったりし、そしてその決定をふたたび第三者へと向けるということが引き起こされるのである。

あるいは市場をとりあげるなら、それは経済システムの構成部分であるが、同時に参与者たちにとってはある種の環境である。参与者たちは価格に合わせるわけだ。システムは内部に外部世界をうみだしたのである。経済に含まれない世界の出来事に対しては、システムの中でそのシステムのもつ手段によってのみ反応が生じうる。そのようにして把握されることのないざわめきは消え去っていく。

ルーマンを読むのは大変なことだ。その苦労が報われるであろうことは、次のような予告編からもわかる。「真実のあとは広告である」と彼のメディア研究にはあるし、「女が愛するときは正しく愛しているといわれる。男はその間でなければならない」と彼の『情熱としての愛』では述べられている。

「今世紀でもっとも重要な社会学者」(『フランクフルター・アルゲマイネ紙』)の影響力は実際にはどれほど大きかったのだろうか? そしてどれほど大きいのだろうか? 確かなのは、一方にインスピレーションを与えられないつまらない社会学があり、他方に体系的でないおしゃべりに終始しているエッセイばかりの哲学がある時代の中で、今やもう彼の声が聞けなくなってしまったということである。
『シュピーゲル』47 / 1998

1 件のコメント:

  1. 訂正

    (誤)
    さまざまなアカデミック・キャリア-優秀な法学徒、行政学の講師、行政官僚、一セメスターで博士号と教授資格を得たアメリカへの留学-

    (正)
    さまざまなアカデミック・キャリア-優秀な法学徒、行政学の講師、行政官僚、アメリカ留学、一セメスターでの博士号と教授資格の取得-

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